Water and Flame

「Water and Flame」は日本語直訳で「水と火」。

私は「川の水と夕焼けの光彩」としてこの言葉を用いています。そしてこの名「Water and Flame」をつけた“鑑賞用”としての小鉢、大皿の陶芸作品は私の一番の力を込めて作り上げているものです。

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0:「この作品の説明はこの作品が生まれた背景の話から」

この「Water and Flame」の英語による作品名および展覧会名は1998年のロンドンでの大和日英基金ジャパンハウスの個展の展覧会名で初めて使いました。

「静寂した川の水面に夕日の光の差し込む神秘的な情景」この空気感を陶芸で表現できないだろうかと挑み、もう24年以上もこの表現の追求をしています。

技術的説明の前にこの作品が生まれた背景からのはなしをしたいと思います。

  1:「Water and Flame はじまりのはなし」

1997年から11年間、私は岐阜県の長良川沿いにアトリエを構え住んでいました。この岐阜県に住み始めてすぐに、1998年の英国ロンドンでの個展開催が決まりました。この個展を企画していただいた方は元駐日英国公使夫人カービーみち子さんと当時の大和日英基金副理事長のフィリダ パーヴィスさんです。

(私と東京で親交を深めていたカービーみち子さんが私の大きな陶芸作品を持ってロンドンのいくつかの有名ギャラリーに私の個展開催をお願いするために渡り歩いたと聞いています。ほんとうにありがたいことです。)

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しかし、とても悲しいことにカービーみち子さんは私のロンドンの個展の会場と開催日時を大和日英基金のフィリダ パーヴィスさんと決めていただいた数日後に亡くなってしまいました。この悲しさをまだ若い私にはどう捉えて良いかわからず、その時は私の陶芸家としての創作スタイルも試行錯誤中でロンドンの有名なギャラリーで個展ができるほどの自信も全く持っていないときでもあります。さらに、ロンドンの個展開催まで十か月前のことで時間も無いわけです。とても落ち込んで焦ってもいました。(私のロンドンの個展は最終的にカービーみち子さんの追悼の意を表す開催になり展示面積も期間も通常の倍になり大きなプレッシャーとなりました。)

そんなときに、近くに流れる長良川の雄大さに救われ、大きな勇気と創作力を得ることができました。夕焼けの淡いオレンジ色の光とキラキラ澄んだ青い色の川の水が強烈に生命力ある美しいものに見えたのが印象的です。

それまでの私は陶芸の古典技術(粉引き、志野焼、唐津焼など)を取り込んだ作品を東京の三越、高島屋の美術画廊で発表していました。しかしこの体験から自然と伝統技術でない表現に合った自分だけのオリジナルな技法の追求と共に「川の水と夕焼けの光彩」Water and Flameの名称での生命力ある"水の情景”を表現した作品の創作がはじまりました。

 

2:「Water and Flameの作品説明」

 

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この写真でおわかりいただけるでしょうか。

透明なターキッシュブルーの釉薬の縁取りに淡いオレンジ色の線が見えます。このオレンジ色の部分は絵の具やオレンジ色の釉薬で色づいたものではありません。ターキッシュブルーの釉薬が窯の中で熱しられて外周がオレンジ色に発生する化学反応いわば自然現象です。釉薬の際に緋色を入れるのは難しい技術ではありません。一般的に陶磁器の裏側の底によく見ることができます。しかし表面にこの現象を表現として取り入れた私のような陶芸作品は珍しいと思います。

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水面のような青い釉薬の向こう側の遠くに見えるオレンジ色の緋色の線は夕焼けの色。その上に粘土の地肌の肌色と雲のような白い釉薬。広大な水の景色を陶芸の皿や鉢の内側に表現しているのが「Water and Flame」の顏と言えるものです。

 

3:「Water and Flameの独自の技術」

陶芸の世界では最近珍しくはなくなったターキッシュブルーの釉薬。

このターキッシュブルーの釉薬の透明版を長年の改良を重ねて独自の調合で制作しています。ネット内では一見どこにでもあるようなこの釉薬は完成品を直に見ていただくと独特な光の屈折による不思議な透明感を感じていただけるようです。その秘密は釉薬の施し方にあり、決して真似ができないような独自の技術と自負しています。

この技術により釉薬の発色に独自の「ゆらぎ」が発生し内側にほんとうに水がはいってるような目の錯覚を生み出しています。

-その技術は-

液状のターキッシュブルーの釉薬のきわめて薄い上澄み部分を細い筆で毛細管現象を駆使して素焼きの皿に手ろくろの上で塗り重ねます。この作業を三日間の長い時間を活用してその時のイメージに沿った水面の青い濃淡をゆっくりじっくりと描いています。

この作業時は釉薬は不透明な灰色のため、透明な濃淡のグラデーション作りは長い経験から得た勘だけが頼りになります。

”窯の中で青い釉薬が溶けて底にたまったものでは無く”筆で釉薬の濃淡を描いているのです。ですから中央部が盛り上がった形状の皿でも中央の釉薬が濃いものが出来上がります。

この技術で焼成後に綺麗と思えるものはごくわずかです。完成率は5%ほどの技術で年間で大皿は5枚ほどしか窯から取り出せません。

奇跡的に完成したものには自然界の「ゆらぎ」に似た心地よい水の透明感と流れの動きを感じ取ることができるようです。

 

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以上

話は長くなりましたが、陶芸を通して”人の心にストレートに届く”作品作りを今後も心掛けていきたいと思っています。

畠山圭史